日本人の管理職の悩みでよく聞くのは、「部下を叱れない」です。立派な上司とお見受けする人たちが、異口同音に悩みの一つとしてあげてくるのが、以前はとても不思議でした。この悩みの理由を聞くと、次のものが一番目の答えとして返ってくることが多いです。

  • 「叱ってはいけない」というのが、心理的な負担になっている。
  • 叱ると、部下に「じゃ、自分でやればいいじゃないですか」と言われそう。現実には起こらない会話だと思うが、その言葉に少なからず納得してしまう。
  • そもそも部下に能力ややる気がないので、作業を頼むことが正しいことかどうかも分からない。叱るのも悩むのも嫌なので、つい自分でやってしまいがち。
  • 根気よく教えているが、他の管理職が大声で叱っているのを見ると、自分の努力がむなしくなる。
  • 叱りたくはないが、それが上司としての自分の評価を下げている気がする。

とまぁ、理由はさまざまです。

一方、とてもすっきりしているケースもあります。「私は叱りません」と決めている方です。ご自分の価値観に基づいた方針なので、心理的なわだかまりもありません。感情的になることが非常に少ないので、たまに「え?」と驚いただけで、「やり直します」という部下も出てきます。しかし、リーダーシップの観点から見ると、盲点が見えてくることがあります。

ですから、「叱る・叱らない」は、どちらが正しい行動かという二者択一の問題ではありません。一方、それぞれの方がそれぞれの悩み方をしているということは、その人なりの「人として、管理職としての成長」のきっかけが、そこに潜んでいるということです。そのことを喜びつつ(真面目な話)、ご自分に次の質問をしてみてください。

  1. 仮にあなたが「叱れない」のではなく、「叱らない」を選択しているとしたら、その選択を自分にさせている価値観や前提・想定・思い込み(assumptionの3つの訳)は何でしょう?
  2. 叱ることで達成できる目的があるとしたら、それは何ですか? 長期的にはどうですか?
  3. 叱ることで、あなたやあなたのチームが失うものは何ですか?

リーダーシップ・コーチとして言えるのは、頻繁に叱るのは避けた方がよいということです。その場は多少気分がすっきりしたり、上司の威厳を見せた、という自己満足に浸ったりするかもしれません。しかし部下から見れば、あなたは「いつも機嫌が悪い人」「懐の狭い人」になってしまいます。そうなると、部下は「上司対応」にエネルギーを割くことになり、仕事の効率は下がります。また部下の学びは「こうきたら、ああする」という受け身の作業レベルにとどまりがちです。

上記の3つを自問し、一歩踏み込んだご自分なりの「叱る・叱らない理由」を定義してみてください。この件に関するご意見やご質問をお待ちしています。

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